建築家・隈研吾は数々の名声を轟かせる一方で、その仕事に実害を受けた人や眉をひそめる専門家は多い。那須の美術館で起きたトラブルを機に、全国各地で問題が火を噴きそうな事態となっている。

その建物は、年季の入った牛舎かと見間違うほどだった。屋根の一部は朽ち果て、青カビも生えている。とても、世界的建築家が手がけた建物とは思えない――。

栃木県那須郡にある那珂川町馬頭広重美術館は、主に江戸時代の浮世絵師・歌川広重の作品などを展示した美術館である。'00年にオープンした当時は、細い角材が簾のごとく大量に使われた建物の庇が好評を博し、公共建築賞特別賞や日本建築学会作品選奨など数々の名誉ある賞に輝いている。

この馬頭広重美術館を設計したのは隈研吾氏(70歳)。高いデザイン性と木材などの自然素材を使う「環境に溶け込む建築」を得意とし、新国立競技場や角川武蔵野ミュージアム、高輪ゲートウェイ駅などが代表作として知られている。いまでは世界中からオファーが殺到する建築家だ。

そんな大御所の手がけた美術館が、開館から24年が経過してボロボロになっていると大きな話題を呼んでいる。特に、美術館をすっぽりと覆う庇だ。細い木材には地元産の八溝杉が使われたこともあり名物となっていたが、経年劣化が著しい。

近づいて観察すると、腐食が進んで、木材が折れて崩れているものもある。屋根の装飾に使われた部分は、青カビが生えて、表面が黒ずんでいる。

この惨状をどうにかするべく、町は来年の開館25周年に合わせて大規模改修を行うことを決定する。ところが―その費用になんと3億円もかかることが判明した。地元住民はこう憤る。

「5年前から見るに堪えないほどボロボロになり、いまや地元の人は寄りつきません。ここまでの状態にならないように綿密に設計し、自治体にメンテナンスを周知徹底させるのも建築家の仕事ではないのですか。こんな田舎町が3億円なんてカネを出すのは難しいと思います。そもそも私たちの税金のムダ遣いですよ!」

なぜ、開館から25年近く経って、このような事態に陥ってしまったのか。建築エコノミストの森山高至氏は、隈氏の設計についてこう断罪する。

「直接雨風にさらされるところにスギを使っている点が問題です。本来であれば油分の多く雨に強い木材を使うべきですが、おそらくコストが高いので安い木材を並べたのでしょう。

小規模な商業施設であれば、こうしたデザインはまだ理解できますが、美術館という大型の公共案件ではありえません。『海の家』をつくるような感覚で仕事をしているのではないでしょうか」