もう一つの重要な点は相続問題である。巨万の富を創業家一族が相続するには、莫大な相続税を払う必要がある。そのために、相続した株を売却するケースも目立つ。

 米誌フォーブス「日本の長者番付」(24年版)によると、安田隆夫氏の資産額は9位の41億ドル(約6580億円)。大半が保有するPPIH株の資産額とみられる。相続税の最高税率は55%で、相続税は巨額にのぼる。

■相続税や贈与税がないシンガポールに移住

 では、どうするか。創業者の隆夫氏は怠りない。十重二十重の税金対策を施した。隆夫氏は15年6月にPPIHの代表取締役会長兼CEOを退任し、創業会長兼最高顧問に就任した。そしてシンガポールに移住。この国には相続税や贈与税がない。

 日本政府は相続税逃れ対策として「10年ルール」を設定している。海外に家族が全員移住しても、10年未満の場合は海外に移した資産について相続税や贈与税が課せられる。

 言い方を変えると、海外に移した資産は10年を超えれば日本の相続税や贈与税は課せられずに済む。

 安田氏は間もなく「10年ルール」の縛りが消える。

 PPIHの筆頭株主は「DQ WINDMOLLEN B.V.」。所在地はオランダのアムステルダム市となっている。持ち株比率は22.45%(6月30日時点)。隆夫氏は保有する自社株約1550万株をオランダにある本人の資産管理会社に約650億円で売却(移転)した。

 オランダには、居住する法人が同国または外国の事業体の発行済み株式の5%以上を継続保有すれば非課税(配当や売却益)となる制度がある。

 裕作氏は、父親の隆夫氏からオランダの資産管理会社を相続しても、居住するニュージーランドには贈与税や相続税はない。相続税を払うことなく、息子は父親の莫大な財産を相続できることになる。