忘れもしない十一年前
アンソロジー(合作短編集)を作って文芸イベントに持っていくことになった
テーマはファンタジーの恋愛

俺は主人公が悪辣な義理の姉を出し抜いて王子様と婚約する、ハーレクインの紛いもんみたいな似非ラブロマンスを書いた
他の奴も似たようなもんだった

一人だけアーサー王物語を下地に、内一人の騎士に焦点を当てて、当時の戦争や教会、歴史上人物や時代考証を絡めつつ魔法や神秘のあるファンタジーに落とし込んで、立場の違う初恋を実らせるために歴史の巨悪や陰謀、因縁と対峙する骨太の群像劇を四万文字に纏めて持ってきた奴がいた

俺はその時自分の持ってきた小説が恥ずかしくなって物書きになる夢を諦めた