ワイ「AI絵で手書き絵相手に無双する小説書いて」🤖「ワカリマシタ」ｶｷｶｷ

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 22:59:50.92

　その日、王都にある華やかな美術展の会場は、貴族や上流階級の者たちで賑わっていた。まばゆいシャンデリアが天井を彩り、床にはふかふかの赤絨毯。来場者たちは、思い思いに作品を眺めながら優雅に会話を交わしている。そんな中、俺――遠野　輝（とおの・ひかる）はひときわ目立つ存在というわけでもなく、ただこそこそと会場の隅を歩いていた。異世界に召喚されてから約一か月。突然手に入れた「AI絵生成」のチートスキルに手探りで慣れながら、なんとか暮らしの糧を得ている。

　この世界には、“努力教”と呼ばれる宗教がある。彼らはとにかく己の努力を重んじ、努力で積み上げてきた結果を他人へ誇示することこそ美徳だと信じていた。そんな努力教の信徒である貴族――名をウルカス・ブランデール子爵という男が、この美術展の特別ゲストとして自身の油絵を披露しているのだ。

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:00:24.94

「どうだ、この絵は！　私が寝食も惜しんで何千回も筆を重ね、ようやく仕上げた傑作だ！」

　ウルカス子爵の描いた作品は、確かに迫力があった。巨大なキャンバスには、彼が従軍したとされる戦場が凄絶な色遣いで描かれている。火花散る軍勢、土煙の大地、見るだけでその熱気と荒々しさが伝わってくる。素人目にも上手いと分かる代物だ。しかし子爵は、その仕上がりの善し悪しというよりは、どれだけの苦労を重ねたかをやたらと強調する。

「ここに描かれた武将の甲冑ひとつひとつを丁寧に再現するため、どれだけ筆を走らせたと思う？　一万回以上だぞ！　うむ、私の努力には感謝の言葉しかあるまい！」

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:00:57.54

　子爵の声は会場中に響き渡り、人々は半ば呆れながらも一応は賞賛の拍手を送り、子爵をなだめるように褒めそやしていた。その場に漂う微妙な空気を感じ取った俺は、あまり目立つのはご免だと会釈しながらその場を離れようとした。ところが、ちょうど子爵がこちらへ目を向けたのが運の尽きだった。

「おい、そこの見慣れぬ顔！　貴様は私の絵に膝を屈しないのか？　ひれ伏すなり、称賛するなり、もっと大げさに反応せぬのか！」

　まるで俺が彼の努力を称えないことが不快だとでも言わんばかりだ。周囲の客たちがざわつき、どう反応したものかと途方に暮れる。もともと目立つのは嫌だったが、ここで黙っていては標的にされっぱなしだ。俺は少しだけイラッとした気持ちをこらえつつ、口を開く。

「いや、すごいと思いますよ。努力も重ねてらっしゃるし、絵の完成度も高いと思います。ただ……もっとすごいものを、パッと一瞬で創り出す方法もあるんですよ」

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:01:33.57

　すると子爵の目はカッと見開かれ、頬を紅潮させて息を荒らげた。

「はあ？　絵を一瞬で創り出すだと？　そんな魔法があるわけが……いや、いや！　努力こそ正義のこの世界に、楽をして作られたものなど評価されるはずもないわ！」

　子爵が鼻息荒く怒鳴る横で、俺は静かにスキルを発動する。《AIアートジェネレーター》――異世界に来た時、何の脈絡もなく手に入った謎スキル。頭の中で描きたいイメージをまとめると、それが瞬時に光の粒子となってキャンバスへ投影される。今回、俺が思い描いたのは緑豊かな森と神々しい天使の姿。翼の羽一本まで繊細に表現する、鮮やかで荘厳な構図だ。

　次の瞬間、目の前にパッと光の幕が広がり、そこに生まれたのは見る者全ての心を奪うような天使の絵。淡いグラデーションで形作られた羽ばたき、柔らかな陽光に照らされる緑の森。生命力に満ち溢れ、かつ神秘的な空気を帯びている。

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:02:19.27

「な……なんだと……！」

　子爵は目を丸くして絶句する。会場にいた他の貴族や観客たちも唖然とし、しばらくは静寂が続いた。しかし、その沈黙が破られたのは、誰かが思わず漏らした感嘆の声だった。

「すばらしい……！」

　その一言を皮切りに、場内は大きな拍手に包まれた。子爵に対して遠慮していた者たちも、まさに“本物”を見た衝撃に素直に手を叩き始める。子爵は唇を震わせながら、努力で負けたわけではないとばかりに「こんな馬鹿な……！」と呟き、小さく後ずさった。

　俺は華々しい歓声の中、子爵に視線を戻す。彼はそれ以上何も言えずに押し黙ってしまった。いかに努力を重ねようが、彼の長時間費やした筆の軌跡が、俺の“一瞬”という創造力の前にあっさりと霞んでしまったのだ。

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:02:58.81

　興奮した観客たちは、俺の天使の絵に近づき、じっくりとその細部を眺め始める。その様子にウルカス子爵の顔は真っ赤になり、耳まで熱く染まっていた。

「ふざけるな！　こんなものが芸術だと？　魔法じみた小細工で作られた代物が、私の血と汗の結晶に勝るとでもいうのか！」

　子爵は椅子を蹴る勢いで立ち上がり、怒声を会場中に響かせた。その声は、どこか見苦しい焦りが混じっていた。観客たちは彼の狼狽ぶりに一瞬引き気味になるが、俺は肩を竦めるだけで冷静に対応する。

「そんなに怒らないでくださいよ、子爵。これも一つの表現方法ってだけです。あなたの努力を否定するつもりはありません。ただ……もし必要なら、あなたがいかに素晴らしい絵を描いているか、僕が証明するお手伝いをしましょうか？」

「なんだと……？」

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:03:44.18

　子爵が睨みつけてくるが、俺は構わずスキルを再び発動した。俺のスキル《AIアートジェネレーター》には、特に強力な能力がある。それが「イメージ・トゥ・イメージ（i2i）」という機能だ。既存の絵やイメージを元にして、それをさらに拡張し、細部を補完し、全体の完成度を大幅に引き上げることができる。

　具体的には、頭の中で「もっとこうしたい」という具体的なイメージを思い浮かべるだけで、元の作品を基盤に新たな絵が瞬時に生成される。例えば粗い筆致は洗練されたタッチに、曖昧な部分は緻密なディテールへと変貌する。俺のスキルは、元の作品の良さを保ちながら、それを超える完成度を引き出す力を持っているのだ。

　次にイメージしたのは、子爵が描いた戦場の絵をさらに壮大に拡張したものだ。子爵の作品をベースにしながら、細部を緻密にし、ダイナミックな構図で戦場の熱気を増幅させる。わずか数秒後、光の粒子がキャンバスを覆い、そこには新たな絵が出現した。

　その絵を見た瞬間、会場の空気が変わる。観客たちは息を呑み、さらに近づいて絵を凝視する。壮大な戦場、真っ赤な炎、嵐のような騎馬軍――すべてが生々しいまでに表現されており、まるでその場に立っているかのような臨場感だ。

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:04:26.67

　子爵の目は、まるで引き寄せられるように俺の新たな絵へと吸い寄せられた。釘付けになったその瞳には、もはや抗う余地すらないほどの圧倒的な光景が映り込んでいる。彼が理想とし続けた“完全な戦場”が、彼の想像すら凌駕する形で描かれている。そのあまりの壮麗さに、否定したいという思いすら薄れかけているのが明らかだった。それでも彼は必死に目を逸らそうとするが、無駄だった。絵が放つ威圧感に抗えず、視線を引き戻されてしまう。

「お、俺の絵は、何日も徹夜して……そうだ、そうやって、一筆一筆に魂を込めたんだ！　この甲冑の陰影を出すために、どれだけ研究したか……！　そ、それに、この背景の細かい草木だって、何度も描き直して……！」

　自分の努力を取り繕おうとするように、声高に叫ぶ。しかし、その言葉が虚しい空間に響くだけだと気づいた瞬間、子爵の膝はがくりと崩れた。崩れ落ちた姿には、どこか哀れな敗北感が漂っている。

**それでも動く名無し** · 2025/01/20(月) 23:05:08.82

　会場の人々は完全に俺のスキルに魅了され、子爵の見苦しい言い訳にもはや耳を貸さない。俺は最後に軽く笑いながら、子爵の肩に手を置いた。

「努力は素晴らしいものですよ。でも、時代が進めば新しい技術や才能が生まれる。それを受け入れて、さらに前に進むのもまた、芸術家の成長じゃないですか？」

　その言葉に子爵はしばらく何も言えなかったが、ようやく小さくうなずいた。見苦しい騒ぎは収まり、会場は再び和やかな雰囲気を取り戻す。俺は観客たちの拍手に囲まれながら、静かに会場を後にした。

　こうして、努力教の貴族をやり込めた俺は、歓声を背に少し得意げに会場をあとにする。異世界で手に入れたこの“AI絵”の力が、今後どんな波紋を広げるのか……そんな予感に胸を弾ませながら、俺は新たな道を踏み出していくのだった。

完