その日、王都にある華やかな美術展の会場は、貴族や上流階級の者たちで賑わっていた。まばゆいシャンデリアが天井を彩り、床にはふかふかの赤絨毯。来場者たちは、思い思いに作品を眺めながら優雅に会話を交わしている。そんな中、俺――遠野 輝(とおの・ひかる)はひときわ目立つ存在というわけでもなく、ただこそこそと会場の隅を歩いていた。異世界に召喚されてから約一か月。突然手に入れた「AI絵生成」のチートスキルに手探りで慣れながら、なんとか暮らしの糧を得ている。

 この世界には、“努力教”と呼ばれる宗教がある。彼らはとにかく己の努力を重んじ、努力で積み上げてきた結果を他人へ誇示することこそ美徳だと信じていた。そんな努力教の信徒である貴族――名をウルカス・ブランデール子爵という男が、この美術展の特別ゲストとして自身の油絵を披露しているのだ。