かつて、松岡に話を聞いたことがある。通算191勝190敗で引退した無念、そして「あと9勝」に対する心境を。このとき、松岡はこんな言葉を口にした。

「みんな《191勝》のことを口にするけど、本当に僕が自慢できるのは《190敗》の方なんだよね。オレは190敗もしたのに、それでも信頼して試合に使ってもらった。それはいちばんの自慢。普通ならこんなに負けたら使ってもらえないよ。でも、僕はヤクルトで190敗もしながら、それでも信頼して使ってもらった。それを自慢したい気分だね」

 この言葉を告げると、石川は「うーん」と大きくうなずいて言った。

「めちゃめちゃ、僕も共感します。僕は今、182勝179敗(7月12日現在)ですけど、本当にスワローズだからこれだけ投げさせてもらったと思います。“負けすぎだろ”とか、いろんなことを言う人がいます。でも、僕も松岡さんと同じように、それだけのゲームを、チームから任されたということを誇りに思います。松岡さんの言葉には勇気をもらえます」

 王貞治、長嶋茂雄という球史に残る大選手をバックに巨人のエース・堀内恒夫は通算203勝を記録した。一方、松岡はONを相手に苦心の末に191勝をマークした。単純に比較できる数字ではないのは重々承知の上で、その心境を尋ねると、松岡の口調は厳しくなった。

「うーん、“もしも巨人に入っていたら?”ということはよく聞かれるけど、それは仮の話なんでね。203勝とか191勝とか、比較対象にしない方がいいと思うな。むしろ、僕や平松(政次)はONと対戦させてもらうという得難い経験をしているわけじゃないですか。でも、堀内はONと対戦できなかった。それは投手としてはかわいそうな気もするからね」

 さらに、松岡の言葉は続く。

「やっぱり、“たられば”で話をしたらダメなんだ。逆に僕は、ヤクルトにいたからこの成績を残すことができたんだと思いますよ。もしも僕が巨人に入団していたら、ローテーションにも入れずに191勝もできなかったかもしれないから」

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