球場に行ったことがある人ならば、フィールド上の野手が“あんちょこ”に目を落としている姿を見たことがあるだろう。その小さなシートには打者ごとに打球方向の傾向が記され、野手はそのデータ通りのポジションに立つことが求められている。
指示通りのプレーは悪い結果となっても許容される一方で、データと違う選手自身の判断によるプレーは結果を伴っても咎められる。さらに、アウトを取ったとしても評価に「マイナスポイント」がつけられるという信じがたいことさえある。
“指示通りに動け”というフロントオフィスからの指令は絶対なのだ。イチローさんは嘆く。

「三振オッケーになっちゃっている。まず、それはすごく残念ですね。なんだっていいからバットに当てればチャンスはあるし、ファウルで逃げるとかね、そういうことができるんですけど。とにかく、少なくとも僕のアプローチとはまったく違う野球です。
僕、追い込まれてから甘い球なんか待たないんで。今(の考え方だと)、際どいゾーンをストライクにとられるのは、もう仕方がない。追い込まれてからもストライクゾーンを狭くして、甘いところを待てっていう(指示がある)。
そのアプローチだったら僕、ここにいないです。どうやって野球がうまくなるか、相手が嫌がるのか。いろんなタイプの選手がいて、いろんな役があって、それがぶつかり合うから面白いわけですよね。(フロントオフィスの指示通りに動く)ワンパターン同士がぶつかっても、興奮しない」

https://number.bunshun.jp/articles/-/864737?page=2